■1-7. そのほかの神使
そのほかにも、以下のような神使がいることが知られています。
●鹿
鹿は、奈良の春日大社、茨城の鹿島神宮、広島の厳島神社などにおいて神使とされています。鹿島神宮の祭神である雷神・武神とされた武甕槌大神(たけみかずちのおおかみ)のところへ、天照大御神が鹿の神である天迦久神(あめのかくのかみ)を使わした、という古事記の神話に由来しています。その後、奈良時代になり、藤原氏が藤原氏の氏神である武甕槌大神を祀るため、春日大社を創建します。その際に、武甕槌大神が白鹿に分霊を乗せ奈良まで行ったとされていることから、春日大社でも鹿が神使となりました。奈良公園で鹿が放し飼いになっているのもそのためです。
◆「御祭神(ごさいじん) 」(鹿島神宮)
◆「鹿 シカ 鹿島神宮の祭神「武甕槌命(タケミカヅチノミコト)」の鹿」(神使の館) - 鹿島神宮と鹿、春日大社と鹿の伝説。鹿像の写真。
●兎
住吉大社の神使は兎とされています。住吉大社の祭神は古事記や日本書紀に登場する住吉三神ですが、住吉三神とともに神功皇后も祀られています。その神功皇后がお祭りされた日が卯の日であったことから、兎が神使となったようです。大阪の住吉大社の手水舎には、かわいらしい兎の石像があり、その口から水が注がれています。
◆「住吉大社 / 境内案内と文化財 / 名所旧跡」(住吉大社) - 手水舎。
また、調(つき)神社(さいたま市浦和区)でも、「つき」が「月」とかかることから、江戸時代より月の神の使いとされる兎が神使とされるようになりました。
◆「調神社」(Wikipedia)
◆「兎 ウサギ(1) 月の兎=調(ツキ)神社の兎」(神使の館)
杉崎神社(福井県武生市)では、祭神が大国主命であることから、因幡の白兎の神話に因んで、兎の像が奉納されています。
◆「兎 ウサギ(3) 大国主命の兎(因幡の白兎)」(神使の館)
●烏
熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)における神使は烏です。神武天皇の東征の際に、三本足の烏である八咫烏(やたがらす)が、熊野から大和までの道案内をしたとされる神話に基づいています。この烏は太陽の化身ではないかと考えられ、黒い鳥は太陽の黒点を意味するものではないかとも言われています。
◆「八咫烏」(Wikipedia)
●鳩
鳩は、全国に約7800社あるといわれる八幡神社の神使とされています。その由来は、八幡神社の総本社である宇佐神宮(大分県宇佐市)から、石清水八幡宮(京都府八幡市)に分霊された際に、船の帆の上に鳩が出たという伝説にあるようですが、詳しいことはよくわかっていないようです。
◆「鳩 ハト 八幡神社(応神天皇)の鳩」(神使の館)
◆「石清水八幡宮」(Wikipedia)
●鶏
伊勢神宮では、鶏が神使とされており、敷地内には多くの鶏が放し飼いになっています。鶏が神使となっているのは、祭神である天照大神が、天岩戸にお隠れになってしまった際に、岩戸から出すために長鳴鳥(鶏)が一役買ったという古事記の神話に由来しています。
◆「鶏 ニワトリ 天宇受売命(アメノウズメノミコト)の長鳴鳥(鶏)」(神使の館)
●鼠
鼠は大黒天を祀る寺院・神社で神使とされています(大黒天とは、密教に由来する大黒天が大国主命と神仏習合した神で、豊穣の神とされています)。その由来は、大国主命が、須佐之男命の謀略によって野原で焼き殺されそうになった時に鼠に助けられたという神話から来ています。
◆「鼠 ネズミ 「だいこくさま」の鼠」(神使の館)
◆「大黒天」(Wikipedia)
◆「大国主の神話」(Wikipedia)
●蛇
弁財天(弁天)は、インドにおける川の神であり、そこから神使は蛇だとされたようです。また、農業神・穀物神である宇賀神と弁財天が習合して、頭が人、身体が蛇の姿の像も作られています。
◆「蛇 ヘビ(1) 弁天・弁才天・弁財天の蛇」(神使の館)
●鯉
大前神社(おおさきじんじゃ)(栃木県真岡市)の神使は鯉とされており、桃山時代末期の作といわれる本殿彫刻の中には、雌雄の鯉と鯉に乗る仙人(琴音仙人)が彫られています。また、境内にある大前恵比寿神社の恵比寿像は鯉を抱えています。その由来は、近くを流れる五行川下流で捕えた鯉を侍が調理しようとしたところ、腹から流れた血が「大前大権現」という文字になったという伝説にあるようです。
◆「トピックス」(大前神社) - 鯉にまつわる伝説。本殿彫刻「琴高仙人」 鯉に乗った琴の名士の写真。
◆「本殿彫刻」(大前神社)
また、埼玉県栗橋町の八坂神社では、利根川の洪水の際に、神社の祭神である素盞鳴命(すさのおのみこと)の像が、鯉と亀に守られ流れてきたという伝説から、鯉と亀が神使とされています。
◆「鯉 コイ 栗橋町 八坂神社の鯉」(神使の館) - 鯉像の写真。
●猪
愛宕神社の神使は、猪とされています。それは神社の創建者である和気清麻呂が、政敵であった道鏡に追放され、追っ手から逃げる際に猪に助けられたという故事に因んでいます(道鏡の神託事件)。また、愛宕神社だけでなく、明治時代になり和気清麻呂を祀って作られた護王神社や、出身地の岡山県和気町一帯や左遷先となった鹿児島県霧島市にある和気神社において、猪像を見ることができます。
◆「猪 イノシシ(2) 和気清麻呂の猪」(神使の館) - 和気清麻呂と猪の伝説。猪像の写真。
◆「猪 イノシシ(3) 愛宕(アタゴ)神社と勝(将)軍地蔵と猪」(神使の館) - 猪像の写真。
また、仏教においても摩利支天を祀る寺院には、猪像が置かれているところがあります。摩利支天は陽炎を神格化したものといわれていますが、軍神である一方、五穀豊穣の農業神ともされており、摩利支天像は三面六臂で、猪に乗っている姿で作られています。ここから猪が神使とされたと考えられています。
◆「猪 イノシシ(1) 摩利支天(マリシテン)の猪」(神使の館) - 各地の摩利支尊天堂にある猪像の写真。
●猫
明治時代から昭和初期にかけて養蚕業が盛んだった地域では、蚕に被害をあたえる鼠から蚕を守るため、天敵である猫を飼っていました。そこから猫が、蚕神の神使とされました。
◆「猫 ネコ 養蚕、蚕神、保食命(ウケモチノミコト)の猫」(神使の館) - 猫像の写真。