2010年2月21日日曜日

【狛犬の仲間たち】5. 獅子頭(獅子舞)

■5. 獅子頭(獅子舞)
 正月や祭りの際に見られる獅子舞ですが、その獅子の頭の部分を獅子頭といいます。この造形は狛犬や獅子鼻(→「【狛犬の仲間たち】4. 獅子鼻(木鼻)」参照)に非常に似ており、厄を祓うという意味に置いても狛犬との共通点が見られます。それでは、この獅子舞の歴史を狛犬との共通点を中心に探っていきましょう。

●獅子の調教
 正倉院の中に、花樹の下で、鞭と手縄を持った獅子使いと二頭のライオンが描かれた織物があります。このことから、獅子舞は古代オリエントにおける獅子狩りや、ライオン調教の名残ではないかと推測されます。つまり、王の権威を高めるために、百獣の王であるライオンを王の玉座の下にひざまづかせる獅子座の思想が狛犬へとつながりましたが、同様にライオンを意のままに従えるだけの力と権威を示すのが獅子の調教であり、それが獅子舞につながった、と言えるのではないでしょうか。さらには、獅子の姿をして舞うことは、王の権威を象徴すると同時に、それを見る人々の邪を祓い、福をもたらすという観念をも生み出したのではないかと考えられます。

 宗教儀式としての獅子舞は、インドの遊牧民や農耕民が起源ともいわれています。それがやがてシルクロードを伝わり、中国にもたらされる一方、東南アジアにも広がっていったのではないかと考えられます。

●中国における獅子舞
 中国における獅子舞に関するもっとも古い記述は漢代のものだといわれています。唐代の詩人である白居易も詩の中で獅子舞の様子について述べています。このような獅子舞はやがて中国の舞楽に取り入れられていきました。現在の中国における獅子舞は、清の時代に確立されたといわれています。獅子頭と前脚に一人、後脚と背中に一人の二人と楽団で構成されており、主に旧正月や商店の開店祝いなどで舞われています。

●日本
 平安時代に書かれた「枕草子」には、天皇の行幸に獅子舞が従っていたという様子が描かれています。この中では「獅子・狛犬が舞った」とあります。前述(→「【狛犬の歴史】4. 奈良時代の狛犬」参照)のように、現在では一対で狛犬といわれますが、当時は「獅子・狛犬」と区別されていました。つまり、この時代は、狛犬と獅子舞の区別はなく、獅子舞も「獅子・狛犬」と呼ばれていたようです。さらに、角を持つものは、宮中や神社に置かれた獅子像においても、舞をするための獅子頭であっても、当時は「狛犬」もしくは「高麗犬」といわれていたようです。

 その後、この獅子舞が今日のような民俗芸能となったのは、16世紀初めに伊勢で飢饉が起きた際に、疫病を追い払うために獅子頭を作り、正月に舞われたのが始まりとされています。その後、17世紀に江戸で獅子舞が定着したことで、庶民の間に広まっていきました。

 現在の獅子舞は、西日本に多い伎楽(ぎがく)系の獅子舞と、関東・東北に多い風流(ふりゅう)系の獅子舞という二つの系統に分けられます。伎楽系の獅子舞は、正月や神楽で舞われることが多く(そのため、神楽系ともいわれます)、中に入る人数で大獅子、中獅子、小獅子に分かれます。一方、風流系の獅子舞は一人が一頭の獅子に入り、太鼓を打ちながら舞います。関東地方では三匹一組の三匹獅子舞が見られ、山間部の農村では一般的な郷土芸能・民俗芸能となっています。

●獅子頭信仰
 また、獅子頭が獅子舞から離れ、それ自体が信仰の対象となっている神社もあります。埼玉・玉敷神社では、神宝である獅子頭を人々が貸し出して祀った後に、家々を祓って歩くという神事が伝わっています。東京・波除稲荷神社には、金箔・金箔で飾られた獅子頭が祀られており、頭に着いた宝珠の中には神像が収められています。大阪・難波八坂神社には、巨大な獅子殿があり、この神社の御祭神である牛頭天王(ごずてんのう)の憤怒の形相をあらわしているとのことです。このように獅子頭そのものが信仰の対象となるということは、狛犬にはない特徴だと言えるでしょう

●沖縄
 また、沖縄でも獅子舞は伝統芸能として各地で受け継がれており、豊年祭や旧盆の行事で演じられています。獅子舞は悪霊を祓い、五穀豊穣・子孫繁栄などをもたらすといわれ、三線や太鼓の演奏やエイサーの演舞にあわせて舞われます。沖縄の獅子舞の特徴は胴体も足も含めた獅子の着ぐるみとなっていることです。また、沖縄本島や周辺離島では一頭で、宮古・八重山地方では雌雄二頭で舞われます。沖縄の獅子舞は、その演目や様式の多さから、中国だけでなく、本土からも数回に渡って伝播したものが次第に習合されて出来上がったのではないかといわれています。

●バリ島のバロンダンス
 実は、インドネシア・バリ島にも獅子舞に非常に似たバロンダンスという伝統芸能があります。バロンダンスとは、獅子に似た長さ3メートルほどのバロンといわれる霊獣がランダという魔女と終わりのない戦いを繰り広げるというヒンドゥー教の神話をもとにした物語にあわせて舞われるものです。バロンダンスは、下顎が動きカチカチと音を鳴らす獅子頭の構造や、二人一組で舞う姿が獅子舞に非常に似ていますす。また、人々に吉をもたらし凶を祓うものとされていることや、バロンは使われないときは寺院の祠にしまわれ御神体とみなされていることなども、獅子舞との共通点といえるでしょう。このバロンダンスの由来ですが、10世紀頃に仏教の伝道氏がバリにやってきた後に現在のバロンとランダの原型が伝えられたという説や、16世紀にジャワのヒンドゥー教の影響を受けたバロンが厄払いのためにバリに持ち込まれたという説などがあるようです。


◆「獅子舞 | 日本文化いろは辞典」(日本文化いろは辞典)
◆「沖縄好きのための沖縄情報サイト|おきぽた|沖縄の歴史と伝統|獅子舞」(おきぽた)
◆「これもまたシーサーの仲間」(沖縄シーサー紀行)
◆「バロン(barong)」(ウブド・バリ「アパ?情報センター」)
◆「獅子舞」(Wikipedia)
◆「バロン(聖獣)」(Wikipedia)